
栗山町立北海道介護福祉学校
校長 悪七 尚広さま
ー Q. 学園の沿革と教育理念について教えてください。
A. 当校は全国で唯一、町立となる介護福祉士養成校です。1988年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が施行されたのを契機に開校しました。教育目標は「自然と生命を尊び、人間を大切にする視点に立ち、社会福祉従事者としての基礎を学び、人々が共に生きる社会を創造する、主体的担い手になる」を掲げています。具体的には「人間を理解する豊かな感性」「介護・社会福祉の知識と技術」「共に生きる福祉社会の創造」の3項目を設定しています。これらをいかに具現化していくのが、私たち教員の使命です。
ー Q. 2年間の専門課程では、どのような教育を重視していますか。
A. 介護の基本的な知識や技術を習得す基礎力を養成することはもちろんですが、時代の変化に即した独自のカリキュラムを強みにしています。一つは、「栗山町で学び、栗山町に返す」をテーマに、栗山町民と関わりながらゼミナール形式で町の福祉に関する課題と向き合う「地域活動研究」です。
「ヘルスケアグループ」「地域課題解決グループ」「生活支援グループ」の3つに分かれ、2年生の1年間にわたって研究に取り組んでいます。一例を挙げると、ヘルスケアグループでは、高齢者の意見聴取を通じた健康づくりのアイデア提案、地域課題解決グループではすべての世代が安心して暮らせる町づくりについて考えます。生活支援グループでは、町営のものづくり工房とコラボレーションし、3Dプリンターを活用した介護用ベルトや障がいがあっても開閉しやすい水栓蛇口に取り付けるハンドルなどを製作してきました。
そしてもう一つは、将来を見据えた「キャリア形成支援講座」です。介護福祉士資格を取得したとして、就職先は三大介助を中心とした介護施設の現場職員だけとは限りません。施設長やサービス提供責任者をはじめ、養成校の教員や自治体職員、NPOなど可能性は無限大。福祉関係者はもちろん、幅広い分野の先輩方を講師に迎え、将来にわたるキャリアをどう描くか考える内容です。
ー Q. これらの学びは、地元の高校生も巻き込んで取り組んでいるとお聞きしました。
A. はい。2022年度に文部科学省委託事業の採択を受け、「福祉・介護分野における中核的人材養成に向けた高専一貫教育プログラム開発・実証事業」に取り組んでいます。栗山高等学校は普通科の高校ながら、「栗山と福祉」というカリキュラムを3年間で105時間の必修科目として盛り込んでくれました。
当校の学生と高校生、地域住民にも協力をいただき、認知症の徘徊模擬訓練を行って適切な支援を学ぶほか、パラスポーツ体験や映画鑑賞から福祉について考えるなど、座学とフィールドワークを交えたカリキュラムにしています。高校生にとっては、当校の学生が近い将来のロールモデルになるだろうし、当校の学生にとっては〝半学半教〟の経験はその後の大きな力になるのではないでしょうか。
また、当校では地域おこし協力隊の方々もお迎えしており、この実証事業を担当してもらっています。専任教員の資格も取得できるうえ、現場に戻った際にも職員教育に活かすことができます。
ー Q. 町立の養成校としての強みを存分に発揮したお取組みですね。
A. 公立は予算も限られているし、制約が多くて何かと難しいイメージを持たれがちですが、その環境をどう活かすかがすべてだと思います。
そもそも介護の授業というと、車いす体験がオーソドックスになっていますが、それではあまりにイメージが断片的過ぎるというのが本事業に取り組むきっかけになりました。介護というものは医療と比べても若いうちに経験する機会はそうありませんから、どうしても限られたイメージしか沸かないわけです。でも、介護や福祉とは人が生きて亡くなっていく道筋のなかで触れるごく自然な状態にあるもの。こうしたことを多角的な視点から学んでおくことで、介護の仕事を選ばなかったとしてもいろんな場面で適切な支援を受けられたり、他者にアドバイスができたりするかもしれない。結果的にそれが地域の福祉力を押し上げることにつながるのではないかと期待しています。
おかげさまで、先日、この授業を受けた一期生が高校を卒業しました。振り返りのアンケート調査を見ると、入学前は「福祉・介護に興味があった」と答えたのは43%だったのですが、2年間の授業終了後に「福祉・介護への関心が高まった」と87%の学生が回答してくれました。常々大事にしている、「継続性と連続性」の教育が少しずつ形になりつつあると感じています。
ー Q. あわせて自治体と介護人材確保の包括連携協定も取り組んでいらっしゃいます。
A. 介護福祉士養成校はどこも定員割れが続いているような状況ですが、一方で家庭の経済的な事情により進学をあきらめ、高校卒業と同時に無資格で介護施設に就職するケースもあります。有資格者に比べると離職率が高く、3年以内に辞めてしまうことが多いため、まずは国家資格を取得することでそれを防止しようと考えました。それが2022年からはじめた「介護人材確保に関する自治体包括連携協定」で、介護職を志す高校生を対象に自治体からの推薦制度によって当校の授業料の一部を減免する仕組みとなります。道内24の自治体と連携しており、毎年、卒業生がそれぞれの地元に戻って活躍する流れをつくることができています。
ー Q. 今後の展望をお願いします。
A. 学校とは、教育機能を持つのはもちろんですが、学生や卒業生、地域などからあらゆる情報が入ってくる情報集約拠点でもあります。これらの貴重な情報を発信し、垂直展開、水平展開を図っていくことができるかが問われる場でもあるのです。ときには全くの別の領域と思えるような方々ともコミュニケーションを図り、新しい取り組みにチャレンジしていきたいですね。
ー Q. ありがとうございました。